トップページこのページへのリンク・メディアでの取り扱いについて◆そもそもケサランパサランって何んだ?
新郷土料理探検

バカガイ(千葉県 富津)

寿司ネタでは「青柳」として有名だが、実は正式名称は『バカガイ』の方だった。一見ふざけた名称だが、江戸時代から貝柱といえば『バカガイ』と言われるほど凄い存在。バカガイを侮るなよ。

料理料理「志のざき」

千葉県 富津市 富津2280(富津公園内)

幼少の頃、両親に連れられて潮干狩りに行ったとき、はじめてこのバカガイの存在を教えてもらった。

ワタシが掘り起こした貝を見た父親から「それはバカガイだ」と言われ、そのダイレクトなネーミングに大笑いしたのを覚えている。

その頃から既に、ワタシの脳シナプスは一度笑いの伝達物質を受け取ると、それがいつまでも揮発しない仕様になっているらしい。その日は潮干狩りから帰る電車の中でも、そして夜、床についてからも、突然バカガイというネーミングを思い出してはゲラゲラと笑っていた。

カタブツなワタシの両親はそんなワタシに対して「いつまでもバカみたいに笑っているな」と怒るのだが、その「バカみたいに」というセリフからやはりバカガイを連想させてしまい、更に笑いがこみ上げてくるのだ。

怒られたくない気持ちで『笑い』を無理やり押し込めようとして、すごく辛かったのを覚えている。

ワタシは独り者で子供もいないが、もし子供ができたら笑いたいときには好きなだけ笑わせてやろうと思う。笑いを抑制されて育った子供はワタシのようなヒネクレ者のカンシャク持ちに育ってしまう。(閑話休題)

先日、偶然にもすし屋(当然、回っている方だが)で青柳を食べたときに、メニューに「青柳(ばか貝」)と書かれているを見つけた。そして上に書いたような幼少のころのトラウマ経験(?)を思い出したという次第だ。

当然のことながら一人クスクスと笑いながら青柳を食べていたのだが、(周りの客はきっと危ないヤツだと思っただろう)、自宅に帰り、バカガイを調べてみるとさらに大笑いしてしまった。

ワタシは当然、バカガイとは俗称であり、正式名称は青柳貝なのだと思っていた。しかし事実は違っていたのだ。 驚く無かれバカガイは紛れも無くバカガイという名称であり、さらに「バカガイ科・バカガイ属に属する」というのだ。 (バカガイ科とかバカガイ属だぜ!)

こういう知識は知っている人にとっては当たり前かもしれないが、はじめて知ったワタシとしてはもう大笑いするしかない。マンションの上下階および隣の住人の方々には申し訳ないが、大声で思いっきり笑わせていただいた。(それも結構、長時間。)

やっぱり笑いたいときには心ゆくまで笑うべきだ。心ゆくまで笑ったあとは実に幸せな気分になれる。

それで一通り笑ったあとにこのバカガイのことについて多少調べてみたのだ。 するとどうだろう、名称に惑わされるなかれ、こいつは結構凄いヤツだということがわかったのだ。



■まずは『バカガイ』の基礎知識から■

・バカガイ科の二枚貝で、ほぼ三角形の壊れやすい貝殻を持つ。
・貝殻(=貝の家)が壊れやすいので、破家貝とも呼ばれ、転じて『バカガイ』となったという説がある。
・潮の干満、砂地の変化に敏感で一夜にして生息場所を変えるため「場替え貝」とも呼ばれ、転じて『バカガイ』になったという説もある。
・海水からでると貝の口が半開きになり、馬鹿みたいだから『バカガイ』と呼ばれるようになったという素晴らしい説もある。
・貝の内側は白色。本体はオレンジ色。
・大きさは大きいもので8センチぐらい。
・干潮線付近から水深6メートルぐらいの海底に生息する。
・一個の貝に貝柱が大小二個あり、大きい方は”大星”小さい方は”小星”と呼ばれている。

■江戸っ子にとって“貝柱”とはバカガイの貝柱のことだった■

江戸っ子にとって『バカガイ』の貝柱はミル貝やホッキ貝なんか足元にも及ばないくらい超メジャー級で、 単に『貝柱』と言えばそれは『バカガイ』の貝柱を指すものだったらしい。

『バカガイ』がいかに有名だったかを示すものとして、江戸時代に流行った鎖言葉に 「牡丹に唐獅子、竹に虎。虎を踏んまえ和唐内。内藤さまは下り藤。富士見西行うしろ向き。むき身蛤、バカ柱。柱は二階と縁の下。下谷上野の山かづら。桂文治は噺し家で、でんでん太鼓に笙の笛。・・・(以下、鬼のように続く)」 というのがあり、このなかで『バカ柱』=『バカガイ』の貝柱 が登場してくる。しかし『バカ柱』という呼称はあまりにもインパクトがありすぎるなぁ。幼少のころのワタシならもう腹を抱えてひきつるように笑い転げているだろう。

■『バカガイ』はこんな風にも利用されている!■

富津市水産加工業協同組合では、『バカガイ』を食料品としてではなく、 次のような事にも利用している。

1)肥料原料として。。
年間約2000トンの『バカガイ』の内臓(わた)を肥料用原料として供給している。

2)製鉄材として。。
これは驚きだ! 鉄を作るときには鉄鉱石の不純物(硫黄など)を取り除くために石灰粉を用いるのだが、 なんとこの代用品として『バカガイ』の貝殻が利用されているというのだ。 貝殻の成分は炭酸カルシウムだから、確かに利用できるのだろうが、最初に考えた人はまさに天才だ。(平成14年から隣接市の製鉄工場で利用されているとのこと。)

■その他 『バカガイ』豆知識■

・木更津から富津にかけてはかつて青柳という地名で呼ばれていた(現在も青柳という地名がある)ことがあり、 『バカガイ』はこの地方でよく採れるということで『青柳』と呼ばれた。(上にも書いたが『バカガイ』が正式名称で『青柳』が俗称であるということを改めて強調したい。)。

・中国では『蛤蜊(ハウリィ)』と呼ばれ、よく屋台で売っているらしい。
・有名な『バカガイ』料理『なめさんが』(下記参照)だが、 『さんが』とは房総地方に伝わる漁師料理の方法で、鰯や鯵や貝などの内臓を取り出して、味噌、生姜、ネギと一緒に包丁で細かく叩いてつくる料理のことを言うそうだ。(名前の由来は調査中)
・また『なめさんが』の『なめ』は、生が変化したとか、 やはりタタキ料理名の『なめろう(口当たりからこう言われたとか。なめらか・なめる からきたのか?)』が変化したとのこと。
・貝柱を揚げものにすると、貝柱から水分が多量に出て油がすぐに痛んでしまう。 そういう意味でも、貝柱のテンプラやかき揚げはコストがかかるのだとか。



■『バカガイ』を心ゆくまで食べてきた■
〜バカ貝料理専門店でバカ貝ずくしを堪能!(千葉県富津市)〜

上に書いたようなバカガイ豆知識を調べているうちに、どうしても本場のバカガイを食べたくなってきた。 バカガイ料理を食べさせてくれる店を探してみると、やっぱりメッカは千葉県富津市のようだが、 東京湾の海底にトンネルを掘ってくれたおかげで、道が空いていれば2時間ちょっとで東京から行けるのだ。よし次の休日に行ってみよう、と決めた。

そして日曜日、珍しく早起きしバカガイ料理を想像しながら愛車に乗り込む。首都高は空いていてすぐに東京湾アクアマリンの入り口に到着。しかしこのトンネル、グーグルアースで見ると実に凄いトンネルだということがわかる。長さもさることながら、地盤の悪いこのあたりにこんなトンネルを掘るというのは本当に高度な技術が必要なんだそうだ。

こういうことはもっと世の中に知らしめて欲しい。海ほたるネットというサイトがあるのだが、技術的なことはなにも書いていないんだから。日本は技術の国なんだぞ、文系官僚に支配されていてはどんどんダメになってしまう。ま、それはさておき(ほんとは“さておき”たくないが)、我が国の技術力の高さを誇りながら走行距離10万キロオーバーの愛車でその偉大なる海底トンネルを走り抜けていった。

海ほたるを超えると地上というか海上に出る。最高に天気が良い。青い空、青い海、街灯にとまるカモメ(と思ったら実はオブジェだった)、爽快なドライブとはまさにこういうのを言うのだろう。ネットで調べた富津にあるバカガイ料理で有名な店への道のりはあっという間だった。

駐車場に愛車を止める。ニガテな駐車も一発でオッケー。今日はツイている、さあこれから思う存分バカガイを食うぞ! 富津中のバカガイを食い尽くしてやる、そんな気分で店に入った。もしかしたらヨダレをたらしたニヤニヤ顔だったのかもしれない。店に入るやいなや中央のテーブルに陣取り、バカガイ料理を次々にオーダーしはじめた。

ワタシの食いしん坊ぶりに、最初、店員や他の客たちは呆れた表情をしながらクスクスと笑っていたが、次々と出されるバカガイ料理を平然と平らげているうちに、徐々にそれがワタシに対する尊敬の眼差しに変っていった。そして、ついに完食したときは、店にいる全員がスタンディングオベーションでワタシの偉業を称えてくれたのだ!

鳴り止まない拍手の中で、最高のバカガイ料理を堪能した喜びと、選ばれし者の恍惚感とを噛みしめていたっけなぁ。。。

■いただいた料理を紹介しよう■

これは『なめさんが』という料理。 バカガイの身をネギや生姜と一緒にタタキにして味噌で合えた漁師料理だ。 普通なら絶対に酒と肴にしたいところだが、 あいにく車できたもんで、酒は我慢し、白いご飯とともにいただいた。 (こんな自分が本当にエライと思います。)

バカガイの食感・香り・旨みが薬味の刺激と相まって実にご飯に合う。こういう料理はワタシの地元のスーパーではなかなか手に入らないだろうし、手に入ったとしてもクオリティーが違うに決まっている。やはりこの地でないと食べられない味だ。普通ならこれだけでご飯3杯は軽くいけそうだが、次の料理があるので我慢した。

それにしてもバカガイはとてもキレイな色をしている。実に感動的な色だ。 東京湾アクアラインは安くなったとは言えまだまだブルジョア道路だが、 こんな新鮮なバカガイに出会うためならまったく気にならない。(なんて思うのはワタシが気楽な独身だからなんだろうなぁ。)

次が『バカガイ刺身』。 この色と見てくれよん! 本当にキレイな色をしているのだ。

とても上品な磯の風味があり、全然生臭くなく、 ほんのりと甘いのだよ、これが! 『バカガイ』のポテンシャルを最も堪能できる食べ方かもしれないなぁ、とにかく美味い。『バカガイ』を食べにわざわざ富津まで足を伸ばすのなら、これは絶対に食べるべきだろう。

最初はどうしてこんな上等の貝を『バカガイ』なんて名称で呼び続けてきたんだろうって不思議に思っていたけど、どうやらアレだな。つまり、あんまり美味すぎるんで、封建制度の時代には町民がこんな美味いものを食べているってことがお上に知られたらきっと食べるのを禁止させられるぞってことで、あえてこんなダメダメ感満載のネーミングで呼んだんだろうなぁ。うん、きっとそうだ。

そしてこれぞ『バカガイ』の醍醐味、江戸っ子にとっては“冬のタシナミ”であった『貝柱の刺身』だ! 

『バカガイ』には1個(1匹?)につき2個の貝柱があり、 林順信というグルメジャーナリスト(いいなぁ、こういう仕事)の本によると、 「柱は色が白っぽいものや、紅っぽいものが混然と不揃いのほうが美味で、大粒のを「大星」 小粒のを「小星」とよびならわしている」とのことだ。

ワタシが食べたのも白・紅混在だ♪ これにわさび醤油をチョロっとかけて、 口にいっぱい放り込み、“グワシグワシ”とその食感を堪能しながら食い尽くしてやった。

口の中に上品な磯の香りとほのかな甘さが漂って、いやー、こういうを幸せって呼ぶんだろうなぁ。バカガイの味を堪能したら、次は白いご飯を再度頼み、ご飯の上に乗せ一緒に食べてみた。やっぱりご飯と合う! 日本人で良かったなぁ。

そして次が『やきさんが』だ。

これは最初の『なめさんが』を焼いたもので、 ワタシ的にはビールの肴にしたいなぁ。 やっぱり美味いものを食べると酒が飲みたくなるので、そういう意味では 泊りがけで食べにくるべきだろう。

『バカガイ』は生でも凄く美味しいのだが、 火を通すことで甘味が引き立って、また別の世界が楽しめる。なんていうか、 生だと “細面の上品な貴婦人”って感じなのだが、火を通すと“笑顔が可愛いふっくら顔の少女”って感じだ。(笑)

当然、ふっくら顔の少女にはご飯が合う(なにが“当然”なのか解らんが)。『やきさんが』の定食はとても人気があるようで、偶然にも隣のお客さんは『やきさんが定食』を実にウマソーに食べていたっけ。


そして次に『貝柱チャーハン』をいただいた。

火を通した貝柱はやはり甘味が引き立つなぁ、というのを再確認できる一品だ。貝柱の甘みと香ばしさとがご飯と絡み合って最高なのだよ。上のメニュー+白いご飯を2杯食べた後だというのに、腹を空かせた中学生の運動部員のように、ガツガツハグハグと夢中になって食べてしまった。

しかし本当なら、これは〆でいただきたい。旨い肴で酒を楽しみ、そしてご飯で〆る。これが正しい日本人の流儀なんだろうなぁ。やっぱり次は是非、泊りがけできたいものだ。



そして、本当の最後の〆に『かき揚げ丼』をいただいた。

かき揚げはワタシの大好物なのだ。さんざん食べた後だったが、目の前に出されたかき揚げ丼を見ると、ヨダレが湧き出してきやがったぜ。やばいこれで終わりにしなくては、無尽蔵に体重が増え続けてしまう。ワタシは心を落ち着かせ、丁寧に味わうように、かき揚げに喰らいついた。

ふんだんに使われた貝柱の甘み旨みと食感が実に嬉しいかき揚げだった。欲を言えば貝柱の甘み旨みを堪能するには、 タレが若干甘すぎるかなぁなんて気もしたが、そう思わせたのは既にいくつも料理を食べた後だったかもしれない。

しかし貝柱の味としては、先に食べた刺身よりもかき揚げにした方が美味いなと思った。刺身も驚くほど旨かったが、ワタシ的には首一つかき揚げがリードしていたと思う。後半戦すでに胃袋に占めるバカガイ率がほぼ限界となったこの時にそう思うのだから、まず間違いないだろう。

しかも店長によれば、(上にも書いたが)バカガイの貝柱のかき揚げというのは、調理が結構大変なのだとか。それというのもバカガイの貝柱は水分が多くて揚げ物にすると水分が沢山でてきてすぐに油がダメになってしまうらしいのだ。だから頻繁に油を変えなければならず、手間もコストも結構なものになってしまう。こういう話は料理の味を一層引き立てるよなぁ。この話しを聞いてワタシの『バカガイは貝柱のかき揚げが最高説』はゆるぎないものとなった。そんなわけでこのページのトップ画像がバカガイ貝柱のかき揚げとなったという次第だ。

最近はめったに体力を使った仕事や遊びをすることがなくなったが、アメフトや力仕事のバイトをやっていた学生時代ならば、練習後やバイトの後に、このかき揚げ丼を『ご飯超大盛』でオーダーして無言のまま一心不乱にガツガツハグハグ食べたことだろう。バイトの給料が出たときなどは当然、お替りを2回はしただろうなぁ。

そんな感じでバカガイ料理を平らげ、調理場から出てきたご主人、料理を運んでくれた奥様、そして家族ずれの客たちのスタンディングオベーションに見送られながら、勘定を済ませたワタシは彼等に笑顔で手を振りながら店を出て、愛車へと向ったのだった。本当にご馳走様でした。




【漁師料理「志のざき」】 
地図で見ると、この辺りは東京湾に出っ張った場所に遮られた場所で、なんとなくバカガイには適した環境なんだろうなぁと、バカガイのことも海流のこともなんにも知らないワタシは勝手に思ってしまった。

ま、そんなワタシの自説なんてどうでもいいが、とにかくバカガイが美味いのは確か。東京でもバカガイ=青柳は食えるには食えるが、こんなに綺麗な色をして磯の香りに包まれ、尚且つ生臭くなく、そして甘旨いバカガイには、IT企業で大成功したヒルズ住人が行くような店ならいざしらず、まずお目にかかれない。

東京湾アクアラインをくぐり、そのまま館山自動車道に入り、木更津南ICで降り、そこから国道16号線をにょにょっと行けば、ICから20分ぐらいで到着できる。

富津公園の中にあるお店なのですぐに解るだろうし、公園内の駐車場はバカ広いので、よっぽどの観光シーズンでなければ、 まず問題は無い。

この辺りにはバカガイ料理を食べさせるお店はいくつかあるが、ワタシが体験した限りではここが一番美味いような気がする。ま、人それぞれなんで、こういうのは自分の足と舌を使って確かめてみるしかないけどね。

より大きな地図で バカガイ料理 を表示