2005年10月8日 月齢5.1 寒露

ワタシと もぐちゃんは 北関東の某所にある山の上にいた。久しぶりに、ワタシはもぐちゃんと二人で星を見に行こうということになり、 走行距離が既に10万キロ近い旧型のモスグリーンのRAV4で数時間のドライブの末、いまさっき、山頂付近の駐車場に到着したばかりなのだ。既にあたりは夜の世界に包まれており、淡い月の光がより孤独感を引き立てていた。

ワタシたちはRAV4から出て夜の闇の中に舞い降りた。空気の質感が都会とは違うと思った。逃げ場を求めて流れ込むように、冷気がワタシの服の中に滑り込んできた。ワタシはゴアテックス生地のダウンジャケットのフロントジッパーをトップまで閉め、首周りのベルクロテープをキツク止めた。大きく息を吸うと、 まるで身体の中の生ぬるい生活臭みたいなものが、一瞬のうちに浄化されたような気がした。

もぐちゃんは、山頂の夜の空気が気持ちよかったのだろうか、それとも長時間のドライブで 狭い社内に閉じ込められていたことからの開放感なのか、わーい、と声を上げて車やワタシの周りを走り回っていた。

西の低い空にカットした林檎ぐらいに肉付いた月が輝いていた。月が沈み空が満点の星で覆われるまでもうすぐだ。今日のこの近辺での月の入りの時刻は19時44分ごろのはずだ。

ワタシはRAV4からジェットボイルとミネラルウォーターの入ったペットボトル、そして、コーヒーをドリップするための道具やマグカップが入った小型のプランスティック製のコンテナを引っ張りだした。ジェットボイルとは最新式のアウトドア用コンロで、防風とゴトクと保温クッカーとが一体化されているため熱効率が普通のアウトドア用コンロの約2.5倍に向上し、500ccの水を約3分で沸騰させることができるのだ。

ワタシはジェットボイルにガスカートリッジを取り付け、クッカー部分にペットボトルのミネラルウォーターを注ぎ込み、赤い点火ボタンを押した。ゴー、と心地よい音とともに青い炎がジェットボイルの黒いボディーを照らし始めた

もぐちゃんが青い炎と燃焼音に引きつけれれるかのように、ワタシの方へやってきた。 ワタシはジェットボイルを挟むカタチで折りたたみ式の簡易チェアーを二つ並べ、ワタシたちはそれぞれに腰を下ろした。

ワタシは黒っぽいブラスティックのドリッパーにペーパーフィルターを付けコーヒーポットの上に乗せ、 あらかじめ家で挽いておいたキリマンジャロをその中に表面が平らになるように入れた。 そして、その中央部にジェットボイルの クッカーから沸騰したお湯を − キリマンジャロの粉がまき散らないように − 慎重にその中央部に少量注いだ。心地よい香りがワタシの鼻腔をくすぐり、 ワタシの口元が緩んだ。もぐちゃんは、それを見て、きょきょきょ、と笑った。

少量の沸騰したお湯が弾き飛ばした一塊のキリマンジャロの香りが夜の空気に拡散されたことを見計らい、 ワタシは先ほどお湯を注いだ中央部めがけて、キリマンジャロの粉ががヒタヒタになるぐらいの量のお湯を、更に慎重な動作で注いだ。 細かい無数の泡が湧き上がり、一際素敵な香りがワタシの身体を包み込む。もぐちゃんは黙ったまま、大きく見開いた眼で、 キリマンジャロの泡を眺めていた。

泡が落ち着くのを見計らい、静かに残りのお湯をキリマンジャロの粉の中央部に注ぎ込んだ。 キリマンジャロの泡が大きく広がり、ドリッパーの淵のあたりまで膨らんだ。ワタシの役目は終わったのだ。 後はドリッパーから落ちきったコーヒーをマグカップに注ぎ、 芳醇な甘みと酸味を味わうだけでよいのだ。 それに、そろそろ月も沈むはずだ、満天の星空がもう少しでやってくるのだ。ワタシたちは待ちきれぬ思いで、 キリマンジャロの大きな泡がしぼんで行くのを見守った。

すごくキレイな星空だね。 と、もぐちゃんは言った。

これだけ星があると、宇宙人ぐらいいてもおかしくないな。 と、ワタシは言った。

宇宙人はいるのかなぁ。 どう思う。 と、もぐちゃんは言った。

ワタシたち以外に知的生物はいない、なんていうほど、ワタシは傲慢じゃないよ。 と、ワタシは言った。

宇宙人はいるはずだ。それがワタシの持論だった。しかし、だとすると不思議なことがある。 ワタシは宇宙人の存在に対する自分の考えを もぐちゃんに説明しはじめた。